●「続・知られざる日豪関係」(891)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ


 兵士たちはボロをまとって、飢えに弱り、木の実や根っこで命をつないでいた。
 一方、対照的にアメリカ軍の兵力は急速に増強されていた。
 陸軍が投入されてヴァンデグリフトの疲労した海兵隊と交代した。
 新しい指揮官アレグサンダー・M・パッチ少将の兵力は約三万五〇〇〇で、カクタス空軍は二〇〇機を越え、うち半分を占める戦闘機は“ピストル・ピート”と呼ばれた日本軍の重砲の射程外ぎりぎりに新設された滑走路から飛び立っていた。
 アメリカ軍はもはや上陸地点周辺の狭い占拠地区に留まっていなかった。
 エヴァンズ・カールソン中佐の第二海兵突撃大隊はルンガから島の末端まで進撃して、途中の日本軍を掃討した。
 突撃大隊は予備滑走路建設のための建設隊を護衛するためアオラに上陸していた。
 この土地はあまりにジメジメしていたので、カールソン隊は一一月三日ルンガに戻ることになり、ジャングルを切り開き、食糧を徴発し、迷いこんだ日本兵を掃射しながら前進した。
 ボーザ曹長の斥候たちに案内されながら、彼らは四〇〇人以上の日本兵を掃討したが、味方の損失はわずか一六名であった。
 一二月三日、彼らはヘンダーソン飛行場を見渡す丘陵地帯に到着した。
 ここで彼らは飛行場を苦しめて来たピストル・ピートを二門破壊することに成功した。
 この戦闘が終ると、死体にとりかこまれながらカールソン中佐は部下を集め、翌朝はアメリカ軍の第一線につくと説明し、≪海兵隊讃歌≫を全員に歌わせながら、先頭に立った。
 現住民たちはすっかり感激して、今度は海兵隊たちに≪進め、キリストの兵士たち≫を歌おうと言いだした。

 ●「続・知られざる日豪関係」(890)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ


 彼女は三万人のアメリカ軍兵士たちの中でただ一人の女性だったから、マラリヤで弱った兵士の一人が担架の上から彼女を見上げて、「ぼくは夢を見てるんだ」とつぶやいたのも理解できよう。
 彼女の活発な物腰やモジャモジャ髪のせいだろうが、新しい噂が島に拡がった。
アメリア・イヤハート(1937年世界一周飛行の途中、太平洋で行方不明になった米女流飛行家)が生きて見つかった」というのである。
 マール・ファーランドのひきおこした騒ぎにもかかわらず、ガダルカナルでの生活は海兵隊が日本の第四次大攻勢を待ち受けていた六週間前よりは、はるかに平穏なものとなっていた。
 百武中将はまだ二万五〇〇〇の兵力を持っていたが、彼らの戦力はひどく弱っていた。
 日本海軍の受けた損害は甚大で、とくに駆逐艦の損失は大きく、“東京急行”による救援輸送はしだいに困難になりつつあった。

 ●「続・知られざる日豪関係」(889)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ


 というのは、一二月一六日、B - 17重爆が海に落ちたという通報が来て、ドナルド・ケネディがボートに乗って救助に向ったからである。
 彼はマールに弾丸をこめた自動小銃を手わたし、事実上、監視所を任せて出発した。
 三日間、彼女は通信の往復をすべて処理し、斥候の報告を受けとり、ヘンダーソン飛行場に爆撃目標を通知する信号を考案することまでやってのけた。
 それも長くはつづかなかった。
 一二月二一日、一七機の戦闘機が上空に飛来し、その援護下にPBY飛行艇がセギ・ポイントの沖に着水して一四人の日本人捕虜を拾い上げ、またマール・ファーランドを乗せて飛びたった。
 ツラギとガダルカナルで、後方のヌーメア(ニューカレドニア島)への輸送機を待っていた時、彼女をめぐってちょっとした騒ぎが起こる。

 ●「続・知られざる日豪関係」(888)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ


 というのは、一二月一六日、B - 17重爆が海に落ちたという通報が来て、ドナルド・ケネディがボートに乗って救助に向ったからである。
 彼はマールに弾丸をこめた自動小銃を手わたし、事実上、監視所を任せて出発した。
 三日間、彼女は通信の往復をすべて処理し、斥候の報告を受けとり、ヘンダーソン飛行場に爆撃目標を通知する信号を考案することまでやってのけた。
 それも長くはつづかなかった。
 一二月二一日、一七機の戦闘機が上空に飛来し、その援護下にPBY飛行艇がセギ・ポイントの沖に着水して一四人の日本人捕虜を拾い上げ、またマール・ファーランドを乗せて飛びたった。
 ツラギとガダルカナルで、後方のヌーメア(ニューカレドニア島)への輸送機を待っていた時、彼女をめぐってちょっとした騒ぎが起こる。

 ●「続・知られざる日豪関係」(887)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ


 その間マールはカヌーの底に身を伏せていた。
 一二月六日の明け方、一行はセギ・ポイントに着き、ドナルド・ケネディは早速新しい助手にいろいろと教えこんだ。
 ライフル銃の練習をさせてみると、マールはたちまち二五発のうち二二発を命中させた ── 伝道看護婦にしては悪くないとケネディは思った。
 彼女はまた優秀な無線技師でもあることを証明した。
 しかし彼女が翻訳した最初の通信は好ましからぬニュースだった。
 時代遅れの貴族的人物であるマーチャント行政長官からの電報で、簡単にこう伝えていた。
「ファーランド修道女を引き揚げさせる手筈が整った。
 伝道所の他のメンバーについて何らかの情報ありや」

 ●「続・知られざる日豪関係」(886)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ


 マールはこの土地と現住民の方言を知っている、暗号も分るし、それに冒険好きな性格であるから最適だ、病院の仕事もビルアよりもセギの方が忙しいはずだ、というのがケネディならではの計算であった。
 一二月三日午前一時、申し出を受け入れた彼女は出発した。
 ニュ―ジョージア島の西端沖には日本軍の往来が増えていたので、前よりもはるかに危険でびくびくするようなカヌー旅行になった。
 ムンダを避けるために、彼女の一行はホーソン海峡を通って北をまわり、それから東へ進んでマロボ礁湖に入ったが、途中で敵の舟艇をかわしたり、ブロブコ島にある日本軍前哨基地のそばをすりぬけたりもした。
 おとなしそうな日本兵の歩哨が、小屋からとび出してきて、カヌーが通るのをもの珍しそうに見ていたが、それだけで満足して戻って行った。

 ●「続・知られざる日豪関係」(884)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ



 さらに部下の現住民たちが救助したアメリカ軍飛行士用の宿舎と彼らが捕えた日本のパイロットを入れる牢獄を運営する仕事があった。
 これだけの仕事をこなすには手不足だと気づいたケネディは、ある大胆な実験をしてみようと思い立った。
 マール・ファーランドがかつて、「どこへでもどんなことでも」やりますと申し出てくれたのを思い出したので、彼女に手紙を書き、ベララベラ島からセギ・ポイントに移って、彼の無線の仕事を手伝ってくれないかとほのめかしてみたのである。
 そうなれば彼は、根拠地に常時留まる必要がなくなり、新しい雑多な仕事をうまくこなす余裕がもてるだろう。
 マールはこの土地と現住民の方言を知っている。