トラム(路面電車)に乗る(4)


「私のために座席を用意するつもりですか? そんな心配は必要ありません。あと15分もすれば、この電車はガラ空きになるのですから・・・」
 乗客のこの温かい言葉に感謝しながら、「あと15分もすれば」とは、何とも気の長い話ではないか?。電車は、すでに郊外にさしかかっている。
 ふと、何かがひらめいた。私の降りる駅までは10分足らず。15分経ったら・・・。何ということだ。電車は終点に着いてしまう!。そうすれば、間違いなく車内はガラガラになる。「そういう意味だったのか?」。
 頭の回転の遅い私がやっと気づいて、くだんの乗客の顔を見ると、当の本人はもちろん、周囲のみんなも穏やかな目で微笑んでいた。
「どうもありがとうございます。では、荷物はこのままにさせていただきます」
「ええ、どうぞどうぞ」
 しばらくして、やっと制服制帽姿の婦人車掌さんが私の方にやってきたのだが・・・。