トラム(路面電車)に乗る(3)


「なんと不届きな!仕事をそっちのけにして、競馬にうつつをぬかすなんて! しかも、勤務中に飲み物まで飲んでいる。迷惑するのは乗客なんだぞ!」(トラムは「市電」だから、車掌さんは「地方公務員」?)
 半ばいらだちながら、ふと周囲の乗客を見ると、座席を立ったり座ったりしてバタバタ落ち着かないのは私だけ・・・。
 夕刊や本を読んだり、外の景色をのんびりと眺めている人。友人と静かに語り合い、あるいは目を閉じて瞑想にふけっている乗客。とにかく、誰もが悠然としているのだ。
 さすがに鈍感な私も、ハッと気がついた。「そうだ、ここは日本ではないんだ!・・・」
 それでも、相変わらず停留所に着くたびに「今度こそは」と車掌を待ち続けたが、やってくる気配は一向にない。「切符はあとでもいいや。とにかく、荷物を座席から取り除こう」。あきらめて荷物を片づけようとすると、すぐ前に立っていた乗客が声をかけてきた。