社会生活(9)

 


 すっかり当惑している様子の親友を、これ以上困らせるのはやめた。
 彼の表情には、ジョークを言うときのあのいたずらっぽい笑顔も、何にでも興味を示す私に誠実に答えてくれるときの真剣なまなざしもなく、ただオロオロと戸惑いを見せていた。
 この“不買運動の徹底ぶり”には、「ここまでやるか!」というぐらい驚いた。いや感心? した。
 また、「不買運動」が「不売運動」になることも 初めて知ることができた。
 「だが」と、私は思う。仮に、若主人が問題の会社のスコッチ・ウイスキ−を私に売ったところで、いわば「外国人相手」である。いくらでも言い逃れができるのでは・・・。
 いったん決めたことは、厳しく守らなければならないという現実を、改めて確認した。
 こういう徹底した不買運動があったからこそ、問題の製薬会社も、サリドマイド児に対するそれまでの態度を改めて、補償問題に前向きに取り組むようになったのだろう。