●「続・知らざる日豪関係」(248)

 〜中野不二男さんの「カウラの突撃ラッパ 零戦パイロットは なぜ死んだか」より〜


「強硬派、穏健派にかかわらず、同じ日本人捕虜として『貴様らそれでも軍人か』は、共通の、そして決定的な弱点だったようだ。
 この帝国軍人として『生キテ虜囚ノ辱(はずかしめ)』を受ける重圧を、つねに捕虜たちは感じていたに違いない。
 そしてその重圧をはねのけようとしたのが強硬派であり、重圧を受けつつもじっと堪えようとしたのが穏健派だったのではないだろうか。
 だが八月五日未明、ついにかれらはその共通項『帝国軍人』ゆえに、あの暴動に突っ走ってしまったのだ。
 私たちを乗せたバスがカウラの町に近づくにつれ、森木氏は記憶が一気にフィードバックされるかのように、次から次へと暴動の夜のことを話しはじめた。」