●「続・知られざる日豪関係」(554)

「─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


「まえがき」の続き


 その翼は、まるで胴からもぎとられた蝶の羽のように怨めしげに見えた。
 もっとも強烈な印象を残した遺跡はガダルカナルの海岸から一五マイルも奥に入った地点にあった。
 くねくねと曲った山間の険路を登るのは、大変な難行軍だったが、やっと尾根に出ると、海上と海岸の全景が展望できた。
 その尾根の片隅にケロシンで動かす旧型冷蔵庫の残骸がころがっていた。
 それは単なる屑鉄ではなく、一九四二年の苦闘の日々──ソロモンの運命が決しようとしていた時、敵中深く孤立しながら、連合軍の勝利を達成するため、計りえないほどの貢献を果した一群の勇士たちの遺物だった。
 この本は彼らの戦歴をたどった物語である。