●「続・知られざる日豪関係」(859)

「 ─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


  “東京急行”を撃滅せよ


 だがこの平和な場所にも危険がしのびよっていた。
 日本兵はまだビルアに現われたことはないが、彼らは島の一部に進出しており、二、三日前にはゼロ戦が伝道所のボートを攻撃して島人を恐怖におとしいれたばかりであった。
 日本軍が支配する地域の二〇〇マイル内側で福音を説くシルヴェスター師は、孤立していたのである。
 しかし彼は一人ぼっちではなかった。
 教会ではニュージーランドから来たすらりとした、巻き毛の看護婦が働いていた。
 三六歳のマール・ファーランドは、不況の時代にピアノ教師から看護婦に転身して、一九三八年ソロモン群島にやってきた。
 日本軍の進出を前に伝道者の大半が逃げ出したあとも牧師と一緒に残留していた。