ク−ルチェンジ

 

 私の家の前は、小学校への通学路になっていた。毎朝、子どもたちが元気に登校する姿を見るのは楽しい。低学年の子どもは、どことなくおどおどした感じで道の端を歩く。これに対して、高学年の子は友だちと道いっぱいに広がって「わが者顔」で歩いている。真夏の子どもたちの服装は、半袖シャツに、男の子は半ズボン、女の子はスカ−ト姿だ。
 ところが、不思議なことに、どの子の腰にもセ−タ−がきちんと巻き付けてある。(何年か前に、渋谷のセンタ−街でよく見かけた光景だが、このファッションは、30年も前からオ−ストラリアで流行していた?)。
「汗が流れるほど暑いのに、なぜセ−タ−が必要なのか?」。私には、不思議に思われた。
 これが決して「不思議でないこと」は、間もなく分かった。私自身が「風邪を引く」という代償を払って・・・。
 メルボルンでは、南極気団の動きによって「ク−ルチェンジ」という現象が起こりやすい。すると、短時間のうちに気温が摂氏で15度も下がるのだ。
 たとえば、1973年2月2日の午後7時に36度もあった気温が、2時間後の9時には21度まで下がってしまった。セ−タ−でも着なければ、風邪を引くのは当然だ。
 メルボルンで、H県の物産展が開かれたときのことだ。担当者が着ていたのは、典型的な「日本の真夏の服装」だった。この軽装ぶりに驚いて、私は「すぐに厚手のシャツを買うよう」勧めた。10月の末で、春とは言っても夜はかなり冷え込む日もある。この日のように曇っていれば、日中でもH県のスタッフは肌寒く感じていたに違いない。彼らは、慌てて洋服店に飛び込んだ。
 聞けば、日本の大手の旅行代理店から、「オ−ストラリアは一年中暑いから、夏の服装で十分だ。」と言われたとのこと。当時は、大手の旅行代理店でも、オ−ストラリアについては「この程度の知識」しかなかった・・・。