「オ−ストラリアン・ハズバンド」への悲しい第一歩

 

それは、突然やってきた。彼らの仲間入りをする“記念の日”が・・・。
 運命を決めたのは、道で偶然出会った“可愛いおばあちゃん”だった。それは、何気ない会話から始まった。
「こんにちは。いいお天気ですね」
「ごきげんいかがですか」
「おかげさまで元気ですよ。あなたは?」
 すれ違った初老のご婦人とあいさつを交わす。オ−ストラリアでは、道で人に会えば見知らぬ者同士でも最低この程度のあいさつはする。
 ところが、このおばあさんはちょっと違っていた。歩く速さを変えないでその場を立ち去ろうとする私の背中に、
「もしもし、ちょっとお尋ねしてもよろしいですか?」と、声をかけてきたのだ。
「何かお役に立つことでも?」私は、おばあさんのほうを振り返った。すると、このおばあさん、
「あなたは、男性でしょう?」と、いきなりとんでもないことを言い出した。
「もちろんですよ」私は、ぶ然として答えた。
「あなたは、どうして奥さんにショッピング・カ−を引かせているんですか?」
 彼女は、何か「納得がいかない」というような表情で私の顔をのぞき込んだ。
「私は日本人です。日本では、買い物は主婦の仕事です。私たちはメルボルンに来たばかリで、女房がまだ買い物に慣れていません。たまたま今日は私が休みなので、こうして妻のお供をして来たのです」
 私は“日本男児”として、ごく当たり前のことを言ったつもりだ。すると、このバアさん、“待ってました”とばかりに、
「あなた方が日本人であることは、初めから分かっていました。私はまた、あなたの言われる日本の習慣についても知っています。その上で、なぜあなたが荷物の面倒をみようとしないのか尋ねているんです」
「私は日本人です。この国に永住する訳でもありません。ですから、日本の習慣に従うのは当然だと思います」
「いいえ、私はそうは思いませんわ。あなたは、今はオ−ストラリアに住んでいるんですよ。だから、オ−ストラリアの習慣に従うべきですし、そのほうがあなたにとってもよろしいのではないでしょう」
 つまり、「豪に入っては、豪に従う」ということなのか!・・・