「夕霧の丘」

 

 メルボルンの東65キロのところに、ウォバトンという保養地がある。「パラダイス・ウ゛ァレ−」とも呼ばれる盆地に造られた町だ。肥沃な土地に恵まれて、特にいちごの産地として知られている。
 メルボルン市内を流れるヤラ川の水は褐色だが、上流のこの付近では川の中を泳ぐ魚の群れが見えるほど澄んでおり、両岸には微妙に濃淡の異なる緑の木々がうっそうと茂っている。
 親友の別荘は、この町の入り口に近いところにある。夕方になると必ず霧がかかることから、「夕霧の丘」という名が付けられている。彼の長男が名づけたそうだ。オ−ストラリアには珍しく降雨量の多いところで、四方を取り囲む山々には、ユ−カリの原生林に混じって松や杉が植えられており、繊細な美しさを誇る日本の山とよく似ている。
 ここで、私の親友とその家族ついて紹介しておこう。彼は43歳の弁護士で、オ−ストラリア・プラスチック協会の副会長を務めている。公園を隔てた隣の町の市議会議員でもある。大学時代は、オ−ル・オ−ストラリア・ラグビ−ティ−ムの花形プレヤ−だった。(オ−ストラリアの西にあるパ−スに住むご両親に会いに行ったとき、彼が日本遠征の際見せた華麗なプレ−ぶりを示す写真が、かつての彼の部屋に何枚も飾られていた)。奥さんは専業主婦で、日本のPTAにあたる小学校のマザ−ズ・クラブの会長をしており、娘一人と息子二人がいる。
 ついでに、我が家の家族構成についても触れておく。妻と、親友の次男と同じクラスの息子が一人。私の子が親友の次男と同じクラスだったことから、弁護士一家とのお付き合いが始まった。
 ある日、親友の別荘に、私たちのほかに3組の家族が招かれた。5軒の家族で、盛大にバ−ベキュ−を楽しもうということになったのだ。
 彼の別荘で過ごした一日はとても楽しかったのは言うまでもないが、これについて詳しく説明するつもりはない。私が、ここで「大きな恥をかいたこと」について述べたいと思う。