「夕霧の丘」の続きの続き

 

別荘には、すでに4台の車が止まっており、私たちが一番遅く着いたことになる。いつものように合図のクラクションを鳴らすと、親友の家族を始め、この日招待されていた客のみんなが私たちに手を振っている。
 いつもなら、親友の家族がそろって渓流に架かる橋まで出迎えてくれるのだが、この日はちょっと違っていた。私たちの“到着の様子”を見て、親友とその長男が鉄砲玉のように私たちのところへ飛んでくるではないか・・・。女房が荷物を持っているのを見たからだ。
 あいさつもそこそこに、親友が女房の手からバスケットとテ−プ・レコ−ダ−を、そして長男が地面に置いてあった残りの荷物と息子の分をごく自然に取り上げた。
 私は、すっかり恥ずかしくなってしまった。やはり、「女房に荷物を持たせるべきではなかった」と悔やんだが、後の祭り?みんなの後から、ひとりしょんぼりと就いて行った。
 親友に謝りながら、
「ひどい二日酔いで、ここまでのドライブですっかり参ってしまった。申し訳ない」
「何の話だい?気にすることなどまったくないじゃないか」
「参考までに聞いておきたいのだけれど、二日酔いで体がしんどいときでも、やはり荷物を持つのは亭主の役目かい?」 
「うん、そうだよ。もっとも、離婚覚悟なら話は別だがね。着の身着のままで追い出されるよりは、少し苦しくても荷物の面倒をみる方がずっといいと思うよ。でも、僕も日本人に生まれていたら、もっとハッピ−だったろうけどね・・・」
 いたずらっぽくウインクしながら、彼は言った。
 ちなみに、この国では奥さんに対して、一週間以上も「愛しているよ!」と言わないと、直ちに「離婚」となるという。本当にそうなのかどうかは確かめられなかったが、いずれにしても「恐ろしい話」だ・・・。
 ちなみに、この日招かれた3組の家族で、荷物を持ってもらうような“出迎え”を受けたのは私たちだけだったと、あえて付け加えておく。