サ−ビスへの気遣い(9)

 オ−ストラリアで現在(注・30年前のこと)流通している50セントコインの中に、表がエリザベス二世、裏にはオ−ストラリア大陸を発見したキャプテン・クックの像を刻んだものがある。これは、「オ−ストラリア発見200年記念」として、イギリスのエリザベス女王がオ−ストラリアを訪問された1970年に発行されたものだ。そのコインが手元にあるときは、タクシ−の運転手さんからス−パ−・マ−ケットのレジ係に至るまで、「よろしかったら、キャプテン・クックのコインを差し上げましょうか」と言って、お釣りをくれる。たぶん、こちらが外国人なので、得意の「サ−ビス精神」からなのだろう。
 オ−ストラリアに来た当初、「クックのコインを集めてみよう」と思ったことがある。そこで、銀行へお金を下ろしに行った際、「キャプテン・クックのコインがありましたら、それにしてくれませんか」と言ってみた。
 すると、出納係の女性はニッコリと笑って、どこからか50セントコインの入った袋をごっそり持ってきて、一袋ずつ開けては丹念に探し始めた。私は、すっかり恐縮してしまった。
 彼らにとって、クックのコインもごく当たり前の貨幣に過ぎないだろう。それを、私の要望にこたえてわざわざ選び出してくれるあたり、つい嬉しくなってしまう。
 お客に対して、ひたすらペコペコするだけの銀行員のいる国とは対照的に、本当の意味での彼らのサ−ビス精神、あるいは心遣いには、感心するばかりだ。