「メルボルン・カップで」のさらに続き

 声の主を見ると、茶色のス−ツを着た背の高い男性だった。ニコニコ笑いながら私を見ている。どう答えていいか、とっさに判断できずにちゅうちょした。すると、彼は私たちを招待してくれた“馬の歯医者さん”に、「なあ、少しいいだろう。日本のことを知りたいし、それにさあ、ウチのウイスキ−の方が上等だし・・・」と、私にウインクしながら大声で叫んだ。
「いいとも。でも、ウイスキ−はそちらの方がいいかもしれないが、食べ物はこっちの方がずっといいぞ。じゃあ、こうしよう!飲み物はそちらで用意して、食べるものは私の方でということに・・・」
「OK。それで決まりだ!」
 結局私は、両方のパ−ティ−を掛け持ちすることになった。
 実は、“馬の歯医者さん”の好意にもかかわらず、隣のテ−ブルに置かれている「日本のオカキ」に私の関心は集中していた。だから、「どうして、ここに日本のオカキがあるのだろう」と思いながらも、私の意思に反して?早速オカキに手が出てしまった。
 “上等のウイスキ−”を何度かお代わりし楽しく喋っているうちに、私は、競馬場に来たことも、別のパ−ティ−の席に飛び入りしたこともすっかり忘れてしまっていた。
 両方の席で、いろいろな人たちと話をしたことは覚えているが、パ−ティ−の後、いったいどのように自宅に帰ったか定かではない。
 また、私に声をかけた人物が知りたいと言っていた「日本のこと」を、どの程度教えられたかについても、まったく記憶にない・・・。