オ−ストラリア語(7) 

 私が“オ−ストラリア語恐怖症”から立ち直ることができたのは、一週間の「牧場巡り・バス旅行」を体験してからである。この旅行で一番驚いたのは、オ−ストラリア人の胃袋の偉大さでも、一日かかっても全体を見渡すことのできないほど広大な牧場の面積でも、また牧場の跡取り息子たちに、イギリスの大学を卒業した者が多いことでもない。
 バス旅行の一行が、実に頻繁に「パ−ドン?」(すみません、もう一度言ってくれませんか)という言葉を使うことだった。
 一人が何かを話す。すると、それを聞いた相手が「パ−ドン?」。そこで、もう一度話を繰り返す。やっと理解できた相手が「何か」を答えると、今度は聞き役に回った人が「パ−ドン?」。そこで、仕方なく「もう一度同じ話をする」という具合なのだ。つまり、お互いに「パ−ドン?」の応酬をしている。(これは、オ−ストラリア人同士の会話の中で、ごくふつうに見かける光景だ)。
 最初は、「バスの中なので、エンジンの音がうるさくて話が聞き取りにくいからだろう」と思っていた。
 ところが、牧場に着いたときもまったく同じ。聞こえるものといったら、家畜の鳴き声と小鳥のさえずり、それに時折吠える犬の声ぐらいなのに、「パ−ドン?」が連発されるのだ。
「外国人の私が、オ−ストラリア人の言葉を簡単に理解できないのは当たり前だ!」と、素直に?思えるようになった。(あるいは、開き直り?)。