のんびり消防車(5)

 

 私は、一人ぼやいた。「そりゃあそうだろう。かれこれ30分以上経っているのに、ホ−スも出ていない。それにしても、ポンプ車の隊員に現場の様子を伝える無線機も持っていないのだろうか・・・」
 仕方なしに、今度は駅の入り口で掃除をしている人に尋ねてみた。
「駅の建物が燃えているそうですね?」
「さあ、どうでしょう? 別にそんな話は聞いていませんけれど」
「そこに止まっているポンプ車の人が、通報があったと話していましたよ。さっき、10人ほどの消防隊員がホ−ムの方に向かったのを見ませんでしたか?」
「そういえば見ましたけどね。大したことないんじゃないですか?」
 私は、すっかり拍子抜けしてしまった。これ以上、“幻の火事”とおつきあいするほど「暇人」ではない。やじ馬たちにサヨナラを言って空を見上げると、美しい夕焼けがほんの少し残っていた。