トラム(路面電車)に乗る(1)

 

 メルボルンに赴任して2週間ほどホテルで過ごしたあと、郊外のフラットに移った。
 当面生活に必要な物をそろえようと、市の中心街に出てデパ−トなどで買い求め、バ−ク・ストリ−ト駅で帰りのトラムに乗った。この付近は、メルボルンで優雅な建物の最も多いところだ。電車の駅は、そんな街の道路上にひっそりと作られたコンクリ−ト製の“細長い小さな島”とでも言ったらいいだろうか。
 帰宅するサラリ−マンで混雑する時間帯(ピ−ク・アワ−)までには少し間があった。だから、車内は比較的すいていた。かさばるものばかりを買い込んで両手いっぱいに荷物を持っていたので、取りあえず空いている隣の席にも荷物を置かせてもらうことにした。網棚は日本の電車に比べて幅が狭く、大きな荷物を載せるのはとても無理だ。
 仕事帰りの乗客が少しずつ増え始め、降りるよりも乗り込んでくる客の方が多くなった。車内は次第に込んでくる。三つ、四つと停留所が過ぎたころから、私のイライラが始まった。切符を売ってくれるはずの車掌さんが、なかなか私の席に来てくれないからだ・・・。