トラム(路面電車)に乗る(2)

 

 電車の切符は、ピ−ク・アワ−には中心街の大きな停留所でも発売するが、普通は車内で車掌さんから買い求める仕組みになっている。
 この国での生活に慣れていないせっかちな日本人としては、「早く切符を買って、隣の席に置いてある荷物を自分の膝の上に移そう」と考えていた。だから、「早く車掌さんが来てくれないか」と、落ち着かない気分でいた。だが、ご婦人の車掌は、乗客の座るべき席にどっかりと腰を下ろしたままで、私の座席の方にはやってこない。
 たまりかねて、立ち上がり様子を見ると、この婦人車掌、缶入りの飲み物を口にしながら、乗客の一人が持っているトランジスタ−・ラジオに必死に耳を傾けているではないか。 どうやら競馬の放送を聞いているようだ。レ−スが終わるたびに? 馬券らしきものを取り出しては、一喜一憂する。それどころか、周囲の乗客と一緒になってワイワイ騒いでは、またラジオに聞き入るのだ。私のイライラは頂点に達していた・・・。