牛乳配達の馬車

  

 ひっそりと静まり返った住宅街。辺り一面、もやに包まれている。昼の間は黄金色に輝いていた歩道の落ち葉も、今は闇の中に消えてしまった。
 突如、深夜の静けさを破るように、遠くからひずめの音が聞こえてきた。
 音のする方向をジ−ッと見つめているのだが、いつまで経っても馬の姿は現れない。いくら目を凝らしても・・・。
 ここで、目が覚めた。ひずめの音は、現実に聞こえていた。正確には、「何とかひずめの音と判断できるぐらい」のかすかな響きが・・・。
 そういえば、昨夜も、一昨夜も、そしてその前の晩も、この音を聞いたような気がする。
 私は、ベッドから飛び降りて窓のブラインドをそっと開け、外の様子をのぞいてみた。
 ここは住宅街なので、街灯はそう多くはない。ところが、はるか遠くに一箇所だけ、こうこうと黄色い明かりのついているところがあった。