夜行列車のハプニング(6)

 

「うっかり目を離したすきに、“ビ−ルの洗礼”を受けてはたまらない。彼女の持っている缶ビ−ルのバランスが崩れそうになったら、何とかしなければ・・・」
 しばらくして、彼女の右腕が、椅子のひじ掛けから滑り落ちそうになった。
「オッと、危ない!」。ふだんの私には、信じられないほど機敏? に反応してサッと両手を差し出し、缶ビ−ルを支えた。
 気配を感じてか、彼女はウッスラと目を開け、2度3度、目をしばたたいたあと、
「ところで、どこまでお話ししましたっけ? ああ、そうそう。息子のお嫁さんになる人のことでしたねえ・・・。
 彼女は、私の手から、ひったくるようにして缶ビ−ルを取り上げた。
 薄暗い車内灯の下で、なおおしゃべりしながら残りのビ−ルをチビチビ飲み、相変わらず手の甲で唇をぬぐう動作を続けていた・・・。