牧場巡りツア−(5)

 

 辺りの静けさと雰囲気が、「夜鳴きそば」を連想させた? 
 とにかく、寝酒用のウイスキ−を買おうと、パブを探すことにした。
 人通りは少ない。街が明るいのが、せめてもの救いだ。明るくなかったら、臆病な私が、夜の街を歩いたりはしないだろう。
「散歩ですか?」
 カメラ店のショ−・ウインド−をのぞき込んでいたジャンパ−姿の男が、振り向きざま、私に声をかけてきた。
 私は、人の顔と名前を覚えるのはきわめて苦手だが、“声”の方には自信がある。
 やはり、昼間訪れた牧場で、アンガスという黒牛に向かって「ハイ!ポ−ズ」と、“注文”をつけていたカメラ・マンの声だった。