● 作家の描いた「特殊潜航艇」(14)
「私はもう一度、心のなかでそう語りかけた。
風はうなずいてるふうであった。
三十一年前、あの髭面で、サッカーと乗馬の得意だった伴は、この海面のすぐ下で、戦艦を撃沈すべく艇を操作し、二本の魚雷を発射したのであった。
── 伴、貴様、よくやったぞ。
クラスの連中も皆、貴様の敢闘ぶりを知っているぞ。
クラスのなかで一番早く少佐になったのは、伴、貴様だぞ ──
私は、そう告げて、なおまだ語り足りないことがあるような気がした。
風はなおも吹き続いていた。」