● 作家の描いた「特殊潜航艇」(17)


「タブロールので入り江あった。
 北は崖で、西は浜になっており、その向うに緑の林と白い住宅が見えた。
 私は、周辺の写真をとった後、心のなかで告げた。
 ── 松尾さん、来ましたよ。あなたとよく柔道をやった豊田です ──
 入り江の水は藍が濃かった。
 私はその底に、沈んでいる松尾艇を思い描いていた。
 松尾大尉の母まつ枝さんがシドニーを訪れたのは、昭和四十三年のことである。(中略)
 八十歳になった松尾大尉の母まつ枝さんは、シドニーで大歓迎を受けた。
 軍港では軍港司令官の提督以下が出迎えた。」