● 作家の描いた「特殊潜航艇」(20)
「 ── どうして海で死んだ戦士には墓標がないのか。
海がすべてを呑みこみ、戦士はそれで満足だというのであろうか ──
防潜網にスクリューをからめとられて、二時間半も苦悶した末自爆した中馬大尉と大森兵曹の戦死の地に、ただ蒼い海水が、風に吹かれて白泡を噛んでいるだけなのが、私には不満なのであった。
私は周囲の写真をとったが、納得し切れないものが残っていた。
艇はグリーン・ポイントに近づいた。
こちらも切り立った崖であった。
伴や松尾大尉はこの地点で防潜網の切れ目を通過したものであろう。」