● 作家の描いた「特殊潜航艇」(45)

「A中佐は、引き揚げられた中馬艇の内部について、特に語ってはくれなかった。
 しかし、これだけの爆薬を爆発させるならば、搭乗員の体にはかなりの損傷があったのではなかろうか。
 私は、前を向いたままの姿勢で、後じさりして行った。
 松尾艇の前部には、上下二段になった魚雷発射管があり、そのすぐ手前の別の台の上には、頭部を緑色に塗った魚雷が一本飾ってあった。
 松尾大尉が発射レバーを引きながらも、発射不能に陥ったその魚雷である。
 緑色の魚雷は、今もなお、松尾艇の二搭乗員の怨みを籠めて、キャンベラの台地に横たわっているのである。」