●「続・知らざる日豪関係」(16)

 
 〜中野不二男さんの「カウラの突撃ラッパ 零戦パイロットは なぜ死んだか」より〜


「ところが、その集団暴動で死んだ南が、それ以前に、『死』とは正反対の行動『脱走』を企てていたという。
 かつて日本軍人は、捕虜を恥辱とし、捕虜になるよりは自決を選んだ、ということを話には聞いていたが、戦後世代の私には、むろんこのことは実感としてわからなかった。
 だからそれまでは、カウラ事件の話を耳にしても、単に『記録』として聞くだけであり、とても自分の理解の範疇のことではなかった。
 しかし脱走となるとべつだ。
 脱走ならば理解できる。
 三十数年前の『記録』でしかなかった事件が、急に人間臭さをおびながら、自分の方に一歩近づいてきたような感じだった。」