●「続・知らざる日豪関係」(77)

 〜中野不二男さんの「カウラの突撃ラッパ 零戦パイロットは なぜ死んだか」より〜


「そこで私は、南忠男を出発点として調べるのをやめ、飛行服の男を起点として調べてみることにした。
 ベル中尉報告の中で、飛行服の男は通訳による訊問を受けた、とある。
 それならば、そのときの記録、たとえば訊問調書や供述書などはないものだろうか。
 捕虜名簿が残っているほどだから、その名簿作成のもととなる調書類があってもよいはずだ。
 まして相手は緒戦当時、それも早期に捕虜となった日本兵であり、連邦政府諮問委員会の席で報告されているほどの男である。
 たしかに捕虜や戦傷病者の人権擁護のために、ジュネーヴ捕虜条約やハーグ条約で、「捕虜は氏名、年齢、階級、兵籍番号以外答える必要なし」とうたわれてはいるが、それでも敵に関し何らかの情報を得ようとする軍情報部にとって、この空襲直後に現われた飛行服の男は、嬉しい収穫だったはずである。」