●「続・知らざる日豪関係」(84)

 〜中野不二男さんの「カウラの突撃ラッパ 零戦パイロットは なぜ死んだか」より〜


「私は『ミナミ』が、または『MINAMI』が『南』であることはすでに知っていた。
 しかしそれは森木氏の『カウラ出撃』などの本から活字をとおして知った、いわば間接的なものでしかなかった。
 明朝体の活字や、公文書の中のタイプによる活字をとおして調べる作業はなんとも味気ない。
 しかしメルボルン郊外の、古い公文書保管室の一室で、資料の山に囲まれて一枚一枚調書をめくり、この漢字の署名が目に飛び込んできたとき、私は南忠男と自分との間を隔てていた三十数年という時間が、ぐっとつめられたような安堵感をおぼえた。
『南忠男』、どこにでもありそうな名前のようにも思える。」