●「続・知らざる日豪関係」(109)

 〜中野不二男さんの「カウラの突撃ラッパ 零戦パイロットは なぜ死んだか」より〜


「クーラーのきいたオフィスから、熱気の充満するオーブンのような格納庫の中に入ると、一瞬にして毛穴から汗が吹き出る。
 庫内を薄暗く照らしている電灯の明かりが、熱帯特有の湿度の高い熱気を、いっそうむし暑く感じさせていた。
 その暑くるしい光の下に、赤い粉をかぶったような零戦の機体が横たえられていた。
 零戦の機体の実物を見るのはこれがはじめてだが、思ったよりも小さい。
 それにペンダー准尉、A・J・某の報告書から想像していたものよりも、かなり痛んだ状態ではあるが、決して『残骸』などというほどではない。
 報告書にあったとおり、エンジン部、尾部、両翼端、風防はなく、人間でいえば四肢と頭部を失った、胴体だけの零戦である。」