●「続・知らざる日豪関係」(110)

 〜中野不二男さんの「カウラの突撃ラッパ 零戦パイロットは なぜ死んだか」より〜


「しかし間違いなく、あの特徴のある零戦の機体だ。
 ただこうして広い格納庫内で、何機かの完全な形の飛行機に混じって並んでいるそれは、勇姿というには惨めなほど、そして戦闘機と呼ぶにはほど遠い、単なるジェラルミンの物体だった。
 全体にうっすらと、赤茶けた錆が浮いている。
 しかし手でこすってみると、所どころではあるが、あの飛行機特有の鈍いジエラルミンの反射が返ってきた。
 私は操縦席内に入ってみた。
 普段の練習飛行で四人乗りのセスナ機に馴れているせいか、この単座式の席内は、圧迫感を感じるほど狭い。」