●「続・知らざる日豪関係」(230)

 〜中野不二男さんの「カウラの突撃ラッパ 零戦パイロットは なぜ死んだか」より〜


「ネグレヴィッチ氏の教えてくれた住所をたよりに、私はボーマン氏に会いに行った。
 かれはシドニーの目抜き通りにある高層ビルの中で、大きな弁護士事務所を主宰していた。 
 受付嬢に案内されてラウンジでしばらく待つと、やがて現われたのは、痩身で小柄だが、声の大きな若々しい老人だった。
 聞けばもう七十代に入っているというのだが、とてもそうは思えない。
 ボーマン氏は私をオフィスの自室に招じ入れると、ドアを閉め、大きな机をはさんで椅子をすすめた。
 そして数枚綴りのファイルを私に手渡すと、同じファイルのコピーを自分でもめくりながら、
『年をとると忘れっぽくなるのでね、こうして事件のことをメモしておくんですよ』、といって説明をはじめた。」