●「続・知らざる日豪関係」(253)

 〜中野不二男さんの「カウラの突撃ラッパ 零戦パイロットは なぜ死んだか」より〜


「緩やかなスロープをなす手入れのゆき届いた芝生に、コンクリートの墓が直線的に並ぶ。
 錆びた鉄の色や硝煙の臭いを連想させる戦争の文字とは裏腹に、いかにも近代的な、暗さなどまったく感じさせぬ墓地である。
 慰霊団全員が慰霊碑前に並ぶと、ニューギニア会会員の手により、かねて用意の垂幕が手際よく碑のまわりに張られ、線香,花束、日本酒などが供えられた。
 続いて、一分間の黙祷のあと、日本から用意してきたカセットレコーダーから『海往かば』が流れ、全員がそれに和した。
 だが、かれらの声がテープから流れる曲にまともな音程を保ってついてゆけたのは、最初のほんの一小節か二小節で、あとは嗚咽の中にテープの歌が響いているだけだった。」