●「続・知らざる日豪関係」(256)

 〜中野不二男さんの「カウラの突撃ラッパ 零戦パイロットは なぜ死んだか」より〜


「式典が終わると、かれは右足をかばいながら、墓標の間を縫って芝生の上を歩きはじめた。
 幅二五センチ、長さ一八メートル、厚さ五センチほどのコンクリートの台座が、二メートル間隔で数十列にわたって並ぶ。
 その台座の上に縦一二センチ、横一八センチの銅板の墓標が、人間の肩幅ほどの間隔で埋め込まれている。
 墓標にはアルファベットの大文字の名前と、死亡の日付けが浮き彫りになっている以外、年齢も階級もいっさい記されてはいない。
 それら一つひとつの墓標の名前を、ときおりかがみ込みながら読みあげるかれの姿は、離れたところで立って見ていた私には、近寄り難いものを感じさせた。」