●「続・知らざる日豪関係」(258)

 〜中野不二男さんの「カウラの突撃ラッパ 零戦パイロットは なぜ死んだか」より〜


「たとえそれらが偽名でも、さして重要な問題ではない。
 偽名で出会い、偽名で呼び合い、偽名で死んでいった者たちなのだから。
 本名を知ろうとしたところでその術はないし、かりにそれが判明したとしても、それはかれの中の映像とは結びつかなかったに違いない。
 そして、墓標の列をゆっくりと見ていた森木氏は、二番目の列の中ごろまで来ると、そこで立ち止まっていた。
 足元の銅板の墓標には、『MINAMI TADAO 5−8−1944』と記されていた。
 浮き彫りの墓標は、低くなった晩秋の西日を受け、その文字はあたかも自己主張するかのように、なおいっそうはっきりと浮き出してみえた。」