●「続・知られざる日豪関係」(273)

 〜中野不二男さんの「カウラの突撃ラッパ 零戦パイロットは なぜ死んだか」より〜


「『アラフラ海の真珠』(小川平著、あゆみ出版刊)という、かつてオーストラリアで採貝潜水夫をしていた人々の苦労話や体験談をまとめた本の中に、オーストラリアでの抑留生活中、ヘイ収容所で南忠男を見た、安井正男という人の話が出ていたのである。
『昭和十七年の半ば頃、一人の海軍士官がヘイ第六キャンプに送られてきた。
 ・・・・・・南忠男と名乗る、眉間に大きな傷跡のある軍人だった。(中略)
 南忠男とは無論偽名で、『南の海で忠義を尽す男』のつもりだろうといわれていた。
 南は日本へは到底帰れまいと覚悟し、また帰る意志もないようだった。
 毎日猛烈に英語を勉強し、英会話にも上達し、捕虜団の団長格になっていた。
『若いけど、なかなか立派な人でしたよ。
 私ら軍人でない者の前できちんとしていたし、本当に礼儀正しい態度しとりましてね。
 英語も上手でしたねえ』」