●「続・知られざる日豪関係」(291)

 〜中野不二男さんの「カウラの突撃ラッパ 零戦パイロットは なぜ死んだか」より〜


「もう一つ、かれの略歴の中で興味をひいたのは、四等水平時代の『普通科信号術練習生』である。
 普通科というのはおよそ水兵として必要な技能訓練のことだろうが、信号術とは何なのだろう。
 具体的にどんな信号のことをさしているのだろうか、と萬代氏に尋ねたところ、これは主として手旗信号、発光信号、モールス信号を習うものだが、このほかに軍用ラッパによる信号の練習もある、ということだった。
 この萬代氏の説明を聞いたとき、思わず私は『これだ!』と声を出しそうになった。
 いくつかある疑問のかたまりの一つが、一瞬にして解けたように思ったからだ。  
 南忠男が、普通の人には吹けぬ、ピストンのない軍用ラッパを使いこなすことができたというのは、このためではないだろうか。
 かれはこの普通科信号術練習生時代の一年の間に、ラッパ信号も習っていたのに違いない。
 豊島一の軍歴は、最初から飛行兵だったのではなく、このラッパからはじまっていたのだ。」