●「続・知られざる日豪関係」(296)

 〜中野不二男さんの「カウラの突撃ラッパ 零戦パイロットは なぜ死んだか」より〜
  

「自爆失敗の理由もいくつか考えられるのだが、しかし本当は豊島は、『我死ス』と打電しつつも、死ぬことは考えていなかったのかもしれない。
 ダーウィンの格納庫で保管されているあの機体を調べたとき、私は墜落というより不時着に近い状態だったのではないかという印象を受けたが、豊島ははじめから不時着を意識していたのではないだろうか。
 メルヴィル島の南機が発見された現場は、たしかに墜落機に対して、都合の良いショックアブソーバーになり得るブッシュ地帯である。
 この自然の、そして偶然のショックアブソーバーもさることながら、やはり豊島はかなり意図的な不時着を試みていた、と思えるのだ。 
 それは南忠男がメルヴィル島に忽然と現われたときから逮捕されるまでの五日間、拳銃を所持していながらも『自決』しなかったこと、また捕虜として収容所にありながらも敵国語である英語学習に精を出すなど、死を感じさせる気配がないからだ。」