●「続・知られざる日豪関係」(388)
〜中野不二男さんの「カウラの突撃ラッパ 零戦パイロットは なぜ死んだか」より〜
「そういわれて、かれはしげしげと私をみていたが、
『そうやねえ、豊島ゆう名前はあの辺にゃ沢山あるからなあ。それだけじゃあわからんのう。
いったいどこの豊島さんやろか』
と考え込んでしまった。
おそらくはかれも、あの百五十軒の豊島を思い浮かべ、困惑していたのであろう。
かりにこの人が、豊島家の中で、自分より上の世代の『豊島』をすべて知っていたとしても、すでに四十年前に故人となった者を知っていることは期待できない。
それは、かれのみならず、町のほかの人々についてもいえることだ。
しかも捜し求めている豊島家は、すでに高瀬町にはないかもしれないのである。」