●「続・知られざる日豪関係」(389)

 〜中野不二男さんの「カウラの突撃ラッパ 零戦パイロットは なぜ死んだか」より〜


「考え込む横顔をうかがいながら、私はまだはじまらぬ翌日からの取材が、徒労に終わるのではないかと不安でならなかった。
 ところが、しばらく沈黙が続いたのち、かれはふいに顔を上げ、
『そういえば、この人も豊島さんや。なあ、あんた』
 と、はす向かいの座席にいた、三十代後半くらいの女性に声をかけた。
 高瀬町方面から高松市内へ通勤している人は、かなり多いらしい。
 私たちが途中の駅で乗り換えたときから、ずっと通路をはさんで私の隣の席にいたその女性も、高松からの勤め帰りの乗客らしかった。」