●「続・知られざる日豪関係」(393)

 〜中野不二男さんの「カウラの突撃ラッパ 零戦パイロットは なぜ死んだか」より〜


「昌三氏の言葉と落ち着いた態度に、捕虜云々の感情的なしこりはなさそうだな、と私は安堵感を覚えた。
 しかし昌三氏の母ツヤ子さんは、一が尋常小学校高等科を出る頃に、徳繁のもとへ嫁いでいるので、わずか四、五年の間ではあるが家族の一員としてひとつ屋根の下で過ごしていた。
『一さんはね、とっても気の優しい人でしたよ。
 世話好きというんですか、きちんとした性格で、面倒見が良くてねえ。
 いつも義姉さん義姉さんいうて、そりゃもうとっても大事にしてくれましたよ。
 ちょっとした家の道具でもね、すぐに作ってくれたりして、いろんなことを手伝ってくれました。
 それにね、一さんは動物が好きだったんでしょうねえ、ひよこを育てたり、アヒルを飼ったりしていましたよ。
 あるとき庭から逃げ出していったアヒルを追いかけて、裏の高瀬川のところまで走って行ったのなんか、今でも思い出しますよ』」