●「続・知られざる日豪関係」(398)

 〜中野不二男さんの「カウラの突撃ラッパ 零戦パイロットは なぜ死んだか」より〜


「それは豊島一が佐世保海兵団に入団し、海軍四等水兵として第五十七期普通科にいた『信号術練習生』時代の記念写真の一つであろう、どこかの神社の境内に立ち水兵服姿にラッパを口にあてているものだった。
 ピストンがなく、チューブに組ヒモが巻かれた軍用のラッパである。
 写真を見ながら、私はかたわらにいるツヤ子さん、昌三氏に何かいおうとした。が、言い出せなかった。
 これから数年後、豊島一は背中にP・O・Wと書かれた『赤い服』を着て、この写真のようにラッパを口にあてて、自らのレクイエムを吹き鳴らしたのだろうか。
 それまでは想像でしかなかった『その瞬間』が、急に私の中で音声さえもともなって映像化されたようだった。」