●「続・知られざる日豪関係」(415)

 〜中野不二男さんの「カウラの突撃ラッパ 零戦パイロットは なぜ死んだか」より〜


「その日、カウラでもさまざまな催しが行われ、町には沢山の勲章を胸につけ元気に歩きまわる老人たちの姿が目立った。
 夜、ひと仕事終えてパブに入ると、ここでも勲章をぶら下げた老人たちが、グラスを合わせ、肩を組み合い、楽しそうな輪をつくっているところだった。
 私はそんなほほえましい光景を眺めながら、空いているテーブルに腰を下し、一人ゆっくりとビールを傾けはじめた。
 すると突然、六十代半ばかと思われる、小柄な、一見弱々しそうな老人が私の前に立ちはだかり、『ジャップ、見ろ!』
 と叫んだ。
 いや、叫ぶというほど通るような声ではなかったが、とにかくその語気の強さと表情に、私は気圧された。」