●「続・知られざる日豪関係」(416)

 〜中野不二男さんの「カウラの突撃ラッパ 零戦パイロットは なぜ死んだか」より〜


「老人の言葉に驚いたのは、『ジャップ』本人の私だけではない。
 カウンターやテーブルでかしましく談笑していた町の人々も、一瞬鎮まりかえり、老人に視線を向けた。
 シンとしたパブの中で、老人は私を見据えながら、かぼそいが怒りを含んだ声で言葉を繰り返すと、中風に震える手で勲章のぶら下がる上着を脱ぎ、シャツのボタンをはすしはじめた。
 そして上半身裸になると、腰をのばし、胸のあたりを指さして、もう一度叫んだ。
 『ジャップ! よく見ろ。お前の国の奴らがやったんだ。
 日本兵に切られた跡だ、わかるか!』」