〜中野不二男さんの「カウラの突撃ラッパ 零戦パイロットは なぜ死んだか」より〜
「『気にするなよ、今日は荒れているようだ』
パブのあちこちからかけられる声に、私はホッとして胸を撫でおろしたものの、この一瞬の出来事の間、老人にひとことも言葉を返すことができなかった。
カウラ事件の取材にこの町を訪れるのは、これですでに数十回目になっていた。
いつも取材が終わるたびに、このパブへ来ては町の人々と話すことを常としていたが、このような経験はついぞなかったことだった。
私の肩に手をかけて、
『あのころは』と過去を話す町の古老たちは、いつも好々爺そのものだったのだが・・・・・。」