●「続・知られざる日豪関係」(420)

 〜中野不二男さんの「カウラの突撃ラッパ 零戦パイロットは なぜ死んだか」より〜


「管理しているのはカウラ市、担当は五十がらみの男性である。
 この日もかれは朝九時に来て、芝生の落ち葉を拾い集め、戦没者慰霊碑のまわりを掃き清め、スプリンクラーを開けて水をまいているところだった。
『あの墓地は、われわれがいつもきれいにしている、心配するな』
 とは、カウラのパブで、年配の人々からよく聞く言葉である。
 たしかにそのとおり、いつ見ても美しく保たれている。
 だがその朝、前夜の老人の言葉を思い出しながらあらためて見る光景は、それまでとは違う、複雑な、しかしより美しいものではあった。」