●「続・知られざる日豪関係」(590)

「─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


 ”ステーキと卵”の続き


 クレメンズには損傷したカタリナ機を自沈させ、中国人の避難者をのせた三隻のスクーナー(注:2本以上のマストに張られた縦帆帆装を特徴とする、帆船の一種)を安全な場所へ送り、近所に住む現地人の家族たちを疎開させる仕事が残っていた。
 時々無線機にかじりついてダイヤルをひねり、ゴールドリッジへ向う途中のマクファランか、ラボロに孤立しているローズか、彼の情報をタウンズビルまで中継するマライタのアウキにある無線本部に連絡を試みた。
 クレメンズにとってもっとも重要な場所はバンヤンの樹上にある見張所で、日本機が見えるたびに現住民が合図のほら貝を吹いた。
 彼自身も時々ハシゴで登って展望を試みたが、この日どんよりした視界を通して明らかに輸送船と思われる二隻の大型船がツラギ港に向うのが認められた。