●「続・知られざる日豪関係」(598)
「─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より
”ステーキと卵”の続き
クレメンズの方は一人で孤独な日々を送っていた。
空っぽになった事務所もカシの木で作られた家具も、さむざむとわびしげに見えた。
最後のビールは四月に冷蔵庫から姿を消していた。
ラジオも西アフリカ向けのBBC放送番組しか入らなかった。
落ちつかないままに彼は蓄音機のねじを巻いてみた。
何年もの間に何人もの地区官吏たちが残していった多種多様なレコードがあった。
いつもは、トミー・マーティンズの曲をかけていたが、ある夜うっかりと、≪君遠く家をはなれて≫という悲しい曲をかけてしまった。
あまりにもピッタリだったのでクレメンズはくずおれて泣いた。