●「続・知られざる日豪関係」(605)
「─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より
”ステーキと卵”の続き
出発に当っては何も秘密めかしいものはなかった。
飼い犬のスイナエにみちびかれて、まるで祭りの行列だった。
ざっと一九〇人の人夫がダニエル・ピュールが守ってきた大切な書類を運ぶために集められた。
銀貨八〇〇ポンドをつめこんだ金庫を一六人があえぎながらかつぎ、別の一二人は、分解した携帶無線機の重さによろめいていた。
コックのマイクルとボーイたちは、皿や鍋をかちゃかちゃいわせながら運んでいた。
さらにおそらく世界一気持の優しい看守のアニアが囚人たちを護衛していた。
クレメンズはただ沿岸監視員であるばかりでなく、ガダルカナルの地方行政官でもあったから、監獄も裁判所も金庫も、役所のすべての機構を一緒に移転させねばならなかったのである。