●「続・知られざる日豪関係」(608)

「─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より


 ”ステーキと卵”の続き


 しかし最初のうちは何も変わったことは起こらず、一週間すぎても敵の来る兆候はなかった。
 クレメンズはその間に鶏舎を掃除したり、彼の二二口径銃で射撃の練習をしたり、いつも手許においてきたシェイクスピアの喜劇・悲劇・歴史物を集めた三巻の秘蔵本を読んだりしてすごした。
 ヘンリー五世が聖クリスピンの日にフランス人と戦い、(「ヘンリー五世」の場面)バーナムの森がダンシネンまで動いて来た(「マクベス」に出てくる情景)が、まだ日本軍はガダルカナルに現われない。 
 五月二七日になると日本軍の偵察隊が一五マイル西方のテナルに上陸しているという噂が流れ、翌日には偵察員の一人コイマテが丘をあえぎながら登って最初の詳報を伝えた。