●「続・知られざる日豪関係」(622)
「─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より
”ステーキと卵”の続き
そこでピュールは英語が話せないことを分らせようと試み、煙草をくれという身振りをした。
しかし、「おまえはうそつきだ」と石本は冷たく言った。
少し前の丁重さはすっかり消えていた。
ピュールはなおも粘って空腹で食物が欲しいという身振りをすると、石本は少し信じたのか米を持って来た。
ピュールはなおも無言劇をつづけ、今度はビンロー(注:ビンロウ 檳榔 太平洋・アジアおよび東アフリカの一部で見られるヤシ科の植物。
噛みタバコに似た使われ方をされ、ビンロウジ(檳榔子、areca nut / betel nut)という場合は通常この種子を指す。
ペナン島の名の由来となった植物である)の実が欲しいふりを示した。
するとためらいながら石本は数ヤード離れた小屋へ行ってもよいと言った。
そこでピュールは逃げ出し、石本が気づいた時はどこかに消えていた。