●「続・知られざる日豪関係」(667)
「─ソロモン諜報戦─ 南太平洋の勇者たち ウォルター・ロード/秦 郁彦訳」より
”ステーキと卵”の続き
ブーゲンビル島の南岸に近くマラビタ丘という急な斜面を登った地点で、白シャツに白ズボン姿の中年の男が、丸い眼鏡をかけて頭上を通り過ぎていく飛行機の大群を注視していた。
ポール・メイスンというこの男は、一見したところジャングルに迷い込んだ銀行出納係のような印象を与えた。
彼は小男で、やさしい青い眼は暴力を憎んでいるようだった。
そして彼の控え目で内気な性格はジャングルの住人より、事務所勤務の方がはるかに似つかわしい感じがした。
しかし、外見と実質は往々にして食いちがう。
メイスンはシドニーで生まれたが、一九一五年いらい二〇年以上もソロモン群島に住んでいた。
きわめて小柄ではあったが、雄牛のような力と古い島人たちでさえびっくりするほどの忍耐力の持主だった。